金剛棒(加賀かきもち丸山)
Q:1枚約400円もする「超高級かきもち」を作るのにかかる期間はどれくらいでしょう?
Q:「かきもち」と「せんべい」の違いは何でしょう?
「金剛棒」
日本各地にはさまざまな逸話、歴史的人物などのエピソードが残っています。それは教科書に載らなくても、各地の人々の誇りとして受け継がれていくものもあります。
今では記憶装置の発達で、ほぼ無限の情報を映像などとして記録していくことができますが、100年ほど前までは、文字や絵などで残すしかありませんでしたし、口伝として口頭で語り継がれていくものがほとんどでした。
それらは地名や物の名前として伝わっていくこともあります。
歌舞伎の市川家のお家芸として選ばれた歌舞伎十八番。「十八番(じゅうはちばん、おはこ)」という言葉の由来ともされています。
十八の演目の中でも特に有名で人気なのが「勧進帳(かんじんちょう)」ですが、そのストーリーをご存じですか?
源平の合戦が終わり、京都にいた源義経一行は、兄の源頼朝から逃れるために奥州平泉まで山伏に変装して落ち延びようとしました。
しかし、頼朝は全国の関所に義経を捕らえるようにお達し済みでした。そのため今の石川県小松市の「安宅の関(あたかのせき)」で関守の富樫氏に疑われてしまいます。
そのとき弁慶はとっさの機転で「東大寺再建のための寄付(勧進)を募る旅の途中です」と言って、白紙の巻物をまるで「勧進帳」かのように読み上げて信じさせようとします。
富樫氏は弁慶を信じて関を通そうとしましたが、富樫氏の部下が一行の中に義経そっくりな人物(義経本人)を発見します。
そこで弁慶は「義経と似ている貴様が憎し!」と、主君である義経を「金剛杖(こんごうづえ・山伏やお遍路さんが持っている杖)」で打ち据えます。
その忠誠心に感動した富樫氏は、義経一行と知りながらも彼らの通行を許可してしまうという物語です。
関から離れてから弁慶は泣きながら義経に詫びますが、義経も苦労をともにしてきたことを思い出しながら、これを許します。
歌舞伎「勧進帳」のラストシーンでは、先に逃がした義経を追いかける弁慶が見せる「飛び六方」(バランスを取りながら片足でタンタンと舞台を去って行く動作)があまりにも有名ですね。ちなみに「六方=東西南北・天地」のことで、手足を様々な方向に向けて、どこまでもずっと、という意味が込められているそうです。
ところで、義経一行が安宅の関を切り抜けたのち、農家から「かきもち」と細かく賽の目に切った「あられ」をもらい、これを焼いて食べて道中の旅の糧としながら、無事に奥州に落ち延びたとされています。加賀地方の気候や水が、ちょうどかきもちを作るのに適していたとされています。
そんな加賀かきもちの古来の製法をかたくなに守り続けているのが、小松市安宅町の100年企業、有限会社加賀かきもち丸山さんです。そのおかげで義経や弁慶が食べたものと変わらない製法のものを食べることができます。
超高級かきもち「金剛棒」は、3枚でお値段1,180円(税別)です。
一般的なかきもちより大きく厚く、しっかりと旨味が凝縮されています。「がくぶち」「外側」「内側」「中心」と4層になっており、味の変化が楽しめます。
層によって食感も違い、「外側はカリッと、中心はしっとり、外側と中心の間はややしっとり」と、噛むほどに餅の味や醤油の風味が広がります。
ぜひ、少しずつよく噛んでお召し上がりください。ゆっくり食べるとかなりお腹が膨れるという人もいます。
ところで、商品名は「勧進帳」に由来し「金剛杖」という候補もありましたが、見た目が杖ではないと感じられたため「金剛棒(こんごうぼう)」となったそうです。
原材料には、石川山間で減農薬有機栽培されている糯米(もちごめ)と、霊峰白山の水を使用し、伝統的な二度搗(づ)き製法で作った餅を、なんと3か月もの間、低温熟成乾燥させます。
そもそもかきもちは保存食としての役割も兼ね備えていましたから、しっかり水分を抜いて乾燥させないと保存食として役立ちません。ただし、一気に水分が抜けてしまうと、大きくひび割れてしまい見た目も損ない、商品にすることができなくなります。
そこで、表面を乾燥させたら、低温多湿の場所に入れることによって、外気と表面と中心の水分量が均一化する作用を生かし、3か月もかけて徐々に中心まで乾燥させていきます。
そうすることで旨味も凝縮されるそうです。その餅を約1時間かけて焼き上げ、さらに刷毛で1枚1枚に醤油を塗ります。加賀かきもち丸山さんは、伝統製法ならではの旨味が凝縮したかきもちだけを目指すだけではなく、さらに原料の良さを引き出し、「この味は丸山さんのかきもちだよね」と言われるものをこれからも製造していきたいとおっしゃっていました。
ところで、「かきもち」「あられと」「せんべい」の違いをご存じですか?
大きな違いは原材料です。あられとおかき(=かきもち)は糯米から、せんべいはうるち米(普通のお米)から作られます。
「かきもち(おかき)」……鏡餅を砕いて小さくした米菓です。正月にお供えした鏡餅を、鏡開きにお下げする際、餅に刃物を入れて切ることを忌み嫌い、手で欠いたことから「かきもち」(=おかき)となったと言われています。
「あられ」……原料はおかき同じですが、その名の通り、雲から降る氷の粒「あられ」ぐらいの小粒の大きさのものを指します。しかし明確な大きさの定義はないようです。
「せんべい」……うるち米から作られます。一説には江戸時代、茶店で余ったお団子をつぶして食べたのが始まりとも言われています。
硬いかきもちを噛むことは、唾液の分泌を促し、消化吸収を助けます。さらに早食いを防止し、少量で満足感を得やすくなります。
あごの筋肉を働かせることで脳の生理作用を活発化し、老化を防ぐ効果も期待できるそうです。咀嚼により、歯を丈夫にする働きもあります。
日本の伝統文化である歌舞伎のストーリーやそれを伝えていこうとする人々の営みに思いを馳せながら、昔ながらのかきもちをしっかりと噛んで、いにしえの味をお楽しみください。